生業景デザイン研究所

Ru-CAS:
Co-Laboratory of Integrated Design for Rural-based Crafts, Architecture and Surrounding Sceneries

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2019.10.29

コアトリエ・オープンラボ(2019/8/19-20)&
生業景デザイン研究所開設記念シンポジウム(2019/8/21)
@東北工業大学一番町ロビー

3年間にわたる「この地に技あり!プロジェクト」を締めくくりつつ、「生業景デザイン研究所」の開設を記念して、3日間にわたって開催されました。オープンラボの2日間はいずれも40人近く、シンポジウムでは70人ほどが集まって、情報・意見を交換しました。

21日の開設記念シンポジウムでは、『<民藝>のレッスン』などの著作やテレビ番組でご活躍されている鞍田崇さん(哲学者・明治大准教授)、『ソローニュの森』『柿(こけら)』が注目を集める田村尚子さん(写真家)のお二人に基調講演を頂きました。「美しいものを『美しい』といわない」とは、民藝運動と一定の距離を保ちながら本質を見通した芸術家・岡本太郎のことばですが、これは当研究所が「生業景は地技の横顔」とする見方とも通底するものがあります。お二人もまた、会津昭和村の「からむし織」の再評価に取り組んでおられ、その多面的なまなざし、新たな価値創造の考え方に、大いに触発されました。SDGsが叫ばれますが、物質自然や情報社会を超えて「精神文化のエコロジーに問いかけなくてはならない」とする歴史観に首肯しながら、アノニマスな生業景に着目する意義を再確認しました。

 

後半の座談会では、基調講演や研究報告を受けて、アドバイザーの大和田順子さん(JST-RISTEX領域アドバイザー・NPO法人ロハスビジネスアライアンス共同代表)より、当PJの評価や位置づけについてのコメントを頂くとともに、椎葉村の焼畑など、鞍田さんらとも親和性深いフィールドのお話しを頂きました。PJメンバーの田澤紘子さん(仙台市市民文化事業団)の進行で、鞍田さん、田村さん、大和田さん、大沼代表による議論を深め、単なる情報収集・記録を超えて、何をどう見つめるのか、その結果として何に気づき、何を生み出せるのか、再考・反すうする豊かな時間をもつことができました。

 

8/19のセッション1では『みやぎ蚕糸コアトリエの展開可能性』と題し、丸森町養蚕農家の目黒啓治さん、宮城県蚕糸会事務局の山内正男さん、指導員兼南三陸町戸倉小指導役の阿部一郎さん、結工房吉田信子さん、染織工房琉の中村鉄弥さん、佐野地織保存会の星とみ子さん、陽だまり工房の安島陽子さんと、計7名の登壇者をお迎えし、PJの中核として活躍頂いている阿部倫子さんのコーディネートで、川上から川下にわたる課題について共通認識を持つことができました。近代日本を支えた蚕糸絹業が淘汰された現在は、一定量を生産販売する養蚕家に配慮しながらも、東北のこの地だからこそ、また手技だからこそ得られる風合いや特徴に可能性がある、といった意見が交わされました。また、そのためのみやぎ流の川上・川下連携の可能性や、核となる『糸』の製造の重要性を再認識することとなりました。

 

8/19のセッション2では『秋田・しょっつる研究会の歩みとこれから』と題し、研究会の高橋信一さん、仙葉善一さんにお越し頂きました。名物しょっつるの形成史や7店舗の違いを紹介頂くとともに、産官連携によるさまざまな状況改善の取り組みについてお話し頂きました。これに対し、大崎市岩出山からは、よっちゃん農場の高橋博之さん・高橋道代さんご夫妻に、しょっつるとの比較を交えながら、南蛮とうがらしの製品にまつわるお話し、農家をとりまく環境の話や竹林を通しての海山連携のお話しなどを頂きました。何を守り、どのように展開させ、誰に届けるのか。それが地元の風景にどうつながるのか。食の地技を多彩に捉える要となる調味料のプロをお呼びしたことは的中で、話は多方面に広がりました。

 

8/20のセッション3では『青森・北の工芸ネットワーク』と題し、東北工大OBでもある木村木品の木村崇之さんにお越し頂き、同じOBで仙台箪笥を手がける熊野洞の熊野彰さん、現在東北工大の木工場で技師として教えながら家具作家として人気を博している齋藤英樹さんに対談をお願いしました。木村さんからは、玩具から建築未満までの広領域にわたるお仕事や、国際的評価を常に念頭に置き、商品が営業してくれる、というつくり手の自覚をご紹介頂く一方、熊野さんからは、伝統工芸を通して人を、地域をつくるという根本的考え方をご紹介頂きました。小さくとも自由で超分野的・現代的な齋藤さんのお仕事もまた印象深く、お三方より、地域の資源を多様に活かす新たなつくり手像の可能性をお示し頂きました。

 

8/20のセッション4では『みやぎの景保全と建築技術者の共創』と題し、建築の活用保全をテーマに「つかい手」「つくり手」の意見交換をしました。被災地・雄勝にて人々の思いを結びつけ、新たな生業と景を育て始めた徳水博志さん、地元の旧家を新たな感性で魅力的に育て上げた人気カフェ・くさかんむりを主宰する鈴木蘭さん・所有者の鈴木南枝さんに、地域景観資産の活かし方をお示し頂きました。対して、宮城の建築士会において保存活用の動きを先導されている高橋直子さん・小林淑子さんには、ボランタリーな業務と大きく見える事業費イメージの乖離、それゆえ技術者に閉じがちであった実情をふまえ、ヘリテージマネジャーをはじめとする技術者同士の共創可能性を議論いただくとともに、徳水さん・鈴木さんのような「つかい手」を中心とした、立場を超えた共創のあり方をも論議しました。

 

8/20のセッション5では『岩手・鉄のストーブがつくる環境社会』と題し、釜石のエジソンと呼ばれる石村工業・石村眞一社長をお招きしました。対談は、薪炭をはじめ山林の保全に多面的に取り組んでいる登米町森林組合の竹中雅治さんにお願いし、環境配慮建築の先導者である東北工業大学教授の武山倫さんに進行役をお願いしました。鉄鋼業が幕を閉じるという、釜石の地域産業の変容と危機のなかから、アイデアと製作力で時代をリードする鉄ストーブの力強さは印象的で、この石村さんのお話に、山林の現状と保全に関わる超世代的視点とバイオマスの適切な活用法を説く竹中さんが重層的意義を補足するという、立体的な理解を生む座談となりました。

 

以上の議論は、3日間にわたるハードなグラフィカルレコーディングによって記録に留めました(担当:秋田公立美術大学3年・西尾葉月さん)
セッション1からセッション5を通して、ここにもあそこにも、かけがえのない地技が点在していると同時に、それぞれが不断の改良努力をなされており、こうした協議の場を持つことの一定の意義を確認することができました。
そしてまた、ささえ手ともいうべき私ども研究者らが、つくり手を「図」とし捉え、その論に終始しがちな傾向をもっており、つなぎ手、そしてつかい手に向けても、きちんと発信できる知見をも得ていく必要を再認識するに至りました。

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